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【寒蛙(かんがえる)と六鼠(むちゅう)】論説委員・長辻象平(産経新聞)

 ■「里守り犬」が村を救う

 津軽海峡に面した下北半島の国道沿いには、冷たい霧雨にぬれて桜の花が咲いていた。先週のことである。

 「このあたりの道路にもサルが出てきます」。青森県六ケ所村で核融合の取材を終えてから、下北半島の西北端で建設中の大間原子力発電所に向かうバスの中でガイドさんが教えてくれた。

 世界で最も北に生きる「北限のサル」だ。天然記念物だが、農作物などを荒らしたり悪さをする。その範囲が拡大中という。

 農山村では高齢化と過疎化が著しい。耕作放棄地が増え、山から下りてきた野生動物が残された田畑の作物を食い荒らす。イノシシやシカ、クマなどとともに、サルも人々を困らせる。

 この下北半島では、興味深い対策が進行中だ。むつ市が、訓練した犬を使ってサルの群れを山に追い返す方法で効果を上げている。

 平成20年にシェパードのゴン太、はなの2頭を導入して以来、年300万円にも上ることがあったサルによる農作物の被害が、90万円前後に減ったという。

 じつは、野生動物からの被害防止に犬の力を借りる手法は、今から2年前に施行された「鳥獣被害防止特措法」によっているのだ。

 都市に暮らしているとわからないが、農山村の被害は深刻だ。集落崩壊にもつながり得るという。鳥獣によるこの10年ほどの農作物の全国被害は、毎年200億円前後に達している。

 シカ、イノシシ、サルによる被害が大きい。農家や自治体は、畑の周囲に防護柵(さく)を張り巡らせて侵入を防いできたが、サルは木に登って乗り越えてやってくる。

 そこで国策として犬に白羽の矢が立った。動物愛護法も一部が改正されて、野生鳥獣による被害防止のために働くときには、訓練された犬の放し飼いが認められるようになったのだ。

 こうした犬たちの当初の名称は「追っ払い犬」だったが、とくにサルに対して有用なので「モンキードッグ」と呼ばれることが多くなっている。モンキードッグの導入には、国から自治体への交付金が用意されている。

 犬による追っ払い効果は絶大らしい。農林水産省によると昨春の時点で、23県の計60市町村が取り入れている。下北半島のゴン太たちをはじめとして約300頭が働いているようだ。

 東京農業大学の増田宏司講師は動物行動学者で、犬の行動にも詳しい。山梨県内でのモンキードッグの訓練基準やサルに対する導入効果などを研究している。

 訓練には地元の農家の人たちが自分の飼い犬と一緒に参加する。洋犬や雑種もいるが、山梨県なので日本犬の甲斐犬が多い。

 増田さんは面白いことに気がついた。1980年代に行われた米国での研究によると、日本犬の知能は洋犬に比べて劣るとされていたのだが、じつはそっけなく見える反応の中に優れた資質を秘めていたのだ。「自分で考え、黙々と迅速に行動します」

 増田さんは、もうひとつのことにも気がついた。地域での訓練場所を毎回変えることによる効果だ。サルの目には、犬と人間の集団がいろんな場所に現れるようになったと映る。これがサルにとっては脅威であり、村里進出への抑止力として働くそうである。

 これらの犬を増田さんたちは「里守(さとも)り犬(いぬ)」と呼ぶ。何ともよい響きではないか。人と犬との好ましい関係がここにある。

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